ビッグブックのスタディ (65) 解決はある 16
今回は、第二章の最後の3ページを取り上げ、第二章全体を振り返ります。
神を見つける
ビッグブックの42ページから:
私たちもまた、おぼれる者のように、無我夢中にもがいて、同じような出口を何とか求めた。1)
ローランド・ハザードがオックスフォード・グループで活動することで霊的体験を求めたように、初期の100人のAAメンバーたちも同じ手段(12ステップ)によって同じ解決(霊的体験)を求めました。
著名なアメリカ人心理学者のウィリアム・ジェイムスは、著書『宗教的経験の諸相』(Varieties of Religious Experience)の中で、人々が神を見いだした(discovered God)さまざまな経験を示している。私たちは、誰に対しても、信仰心(faith)を得る方法は唯一これだけであると説得するつもりはまったくない。1)
これまで、霊的体験とユングについての説明をしてきた中で、AAのテキストではあまり使われない回心(conversion)という言葉を使ってきました。この段落では、霊的体験が「神を見つける(discover God)」「信仰心(faith)を得る」ものであることを明言しています。
ただ、勘違いしないでいただきたいのは、この神や信仰が、必ずしも宗教的なものを意味しないことです。ビルが紹介している『宗教的経験の諸相』には、多様な事例が紹介されており、霊的体験が必ずしもビルが体験したような劇的な宗教的体験であるとは限らないことが分かります。もっと理知的なアプローチであったり、時間をかけた変化であることもあるのです。
・・・私たちが人種、信条、肌の色は違っても、みな生きている創造主の子であり、私たちは、やってみようという意欲と正直さが備わったそのときに、簡単な、自分に理解できるやり方で、神との関係を築き上げていくようになるということだ。1)
どのような変化であれ、共通していることは、一人ひとりがそれぞれの神との関係を作り上げるということです。
次章(第三章)では、ステップ1の各論が展開されます。そして第四章は、神を信じるつもりになれない人のための章です。
さらに、私たちがどのように回復したかを示すやり方(direction)をはっきりと述べた。その次に四十二人の回復の経験が載っている。
経験の話(stories)のところでは、それぞれが自分の言葉、自分の見方で、いかに神との関係を打ち立てたかを述べている。2)
第五章から第七章には、ステップのやり方(direction=指示)が書かれています。第五章にはステップ3と4の説明があり、第六章にはステップ5から11の説明が、そして第七章にはステップ12の説明があります。ビッグブックの後半は「個人の物語」と呼ばれる体験記が収録されています(日本語版では、ハードカバー版以外はドクター・ボブの体験記のみを収録しています)。その体験談では、それぞれの人が「いかに神との関係を打ち立てたか」を述べています。
私たちはステップ1で、アルコールの問題を自分では解決できないことを認めました。12ステップの目的はハイヤー・パワー(神)との関係を作り上げることであり、その関係ができれば、自分では解決できないアルコールの問題を、神が私たちの代わりに解決してくれるというわけです。
第二章の振り返り
第二章は三つのパートに分かれていました(第48回)。
最初のパートでは、AAという集まりがアルコホリズムという「共通の問題」を抱えた人の集まりであり、さらに、その問題に対する解決も共通していると説明がありました。
では、その「共通の解決」とは何でしょうか?
それは「ミーティングだ」と答える人もいますが、残念ながらそれは間違いです。ビッグブックはミーティングに関する本ではありません。
「12ステップだ」と答える人もいますが、それは半分正解といったところでしょう。12ステップは手段であり、その目的が霊的体験(霊的な目覚め)です。つまり共通の解決とは霊的体験、あるいはそれを通して得られる神との関係のことです。
二番目のパートは、ステップ1(問題)についての説明でした。「医師の意見」で私たちは、身体のアレルギーと精神の強迫観念について学びました。この二つのうち、精神の側にある強迫観念がアルコホリズムの問題の本質です。本物のアルコホーリクと呼ばれる人たちは、強迫観念がもたらす「最初の一杯の狂気」に対抗できず、再び酒を飲み出してしまいます。
三番目のパートは、ステップ2(解決)についての説明でした。本物のアルコホーリクであっても、霊的体験を得ることで神との関係ができれば、アルコールの問題が解決されます。そして、その考えは、スイスのチューリッヒにいたカール・ユングからAAにもたらされました。
この段階で
さて、この第二章を読み終えたところで、すこし立ち止まって考えていただきたいことがあります。
あなたは、これまで生きてきた中で、神を見つけたことがあり、しかも神の力によって人生の危機から救われた経験があるでしょうか?
その答えが、Yesならば、この先に進むのは難しくないでしょう。そういう人は、神が存在していることも信じているでしょうし、神が私たちを救ってくれることも信じられるはずです。なぜなら、すでにそういう経験を一度しているからです。前回助けてもらえたのだから、今回も助けてもらおう、と考えるはずです。
ですが、そのような経験を持っている人は少数派でしょう。多くの人は神を見つけたこともなく、救ってもらったこともありません。だから、神がどんなものかを知りません。
知らないものを信じるのは難しいことです。ですが、ステップ2は、ハイヤー・パワー(神)を信じることは要求していません。では、何を信じることを要求しているのでしょうか? ステップ2はこういう文言になっています:
この力とは神のことですが、神を信じろとは書いてありません。ただ、その力が「私たちを健康な心に戻してくれる」ことを信じるということのみです。
つまり、その力(神)が何なのかは分からないが、ともかくその力がどこかに存在していて、私たちがそれを見つけることができれば、その力が私たちのアルコホリズムを解決してくれるということです。だから、前提として二つのことを信じれば良いのです。
-
- その力がどこかに「存在している」こと
- 私たちはその力を「見つけることができる」ということ
ジョー・マキューもこう書いています:
つまり、こういうことだ、まず解決策があると信じよう。そして、その次に、解決策はきっと見つかると信じることだ。4)
We have to first believe that there is an answer and then believe that we can have access to the answer. 5)
ここで、解決策(answer)=神です。
もう一度ステップ1へ
さて、ビッグブックは、ビル・Wら最初の100人のAAメンバーが、直接会うことができない全世界のアルコホーリクに回復のメッセージを伝えるために書いたものです。ですから、ビッグブックを繰り返し読むことは、ビル・Wらと一緒にミーティングをやっているのと同じ効果がありますし、彼らをスポンサーとして12ステップを受け渡してもらっているのと同じ情報が得られるわけです。この本にはアルコホーリクの生命を救うのに必要な情報が詰め込まれています。
ステップ1については、まずシルクワース医師による「医師の意見」に説明がありました。そして、第一章「ビルの物語」の最初の部分にビルの事例がありました。さらに第二章でも説明がありました。もうくどいほどの説明が行なわれてきましたが、しかしビルたちは、直接会えないアルコホーリクたちにこの重要なステップの情報を伝えるのには、まだこれでも足りないと考えたようです。そこで、ステップ1(問題)について、さらに詳しく説明するために、第三章全体をステップ1に使いました。
そうして読者が「そうだ、自分と全く同じだ。何とか自分も回復したい(I must have this thing.)」と言えるようになるには、まず私たちが自分たちの問題を全部はっきりさせる以外に道はないと思っているのである。6)
この「問題」とは、もちろん私たちのアルコホリズムのことです。次は第三章に取り掛かりましょう。
- ビッグブックを書いた最初の100人のAAメンバーたちは、ローランドと同じ手段(12ステップ)で同じ解決(霊的体験)を得た。
- 12ステップの目的はハイヤー・パワー(神)との関係を作り上げることであり、その関係ができれば、自分では解決できないアルコールの問題を、神が私たちの代わりに解決してくれる。
- ステップ2はハイヤー・パワー(神)を信じることを要求していない。
- 必要なのは、その力が存在していることを信じることであり、それを見つけることができることを信じることである。
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