ビッグブックのスタディ (45) ビルの物語 16

今回から「ビルの物語」の三番目のパートの行動のプログラムと呼ばれている部分に入ります。今回のエントリは長くて濃いですよ。

ビルの入院

ビル・Wは1934年12月11日に、タウンズ病院に4回目の入院をしました。彼が入院を決意した経緯については第43回に書きました。彼は妻ロイスあてに書き置きを残して、クリントン通りの自宅を出ました。地下鉄の駅まで歩きながら、彼は考えました。彼が持っていた金はたったの6セント。地下鉄の切符は5セントで買えるので、それで病院まで行けます。しかし、残りは1セント硬貨しかありません。彼は、「どうせ入院するんだったら、そのまえにちょっと良い気分になっても良いだろう」と考えて、ツケの効く食料品店で、ビールを4本買い求めました。

Towns Hospital
Towns Hospital, from PIO

通りに出て1本飲み、地下鉄に乗ってからさらに1本飲み、気分が良くなったビルは、3本目を乗客に勧めましたが、断られたので病院近くの地下鉄のプラットフォームで一気飲みにしました。そして、ご機嫌で4本目を抱えて、タウンズ病院に入っていきました。

酒をやめるんだからと理由付けして、最後の酒を飲もうとするのは、アル中の典型的な考え方の一つです。僕も、4回目の入院の前にハイネケンのビールを二缶買って飲みました。それまで安い麦焼酎を我慢して飲んでいたので、酒をやめる前にちょっと良い酒を飲んでおきたかったのです(当時は海外ブランドのビールは国産ビールよりかなり値段が高かった)。そして、今のところそれが僕の最後の酒ラストドリンクになっています。知り合いの強迫的ギャンブラーは、回復施設に入る前日にパチンコをやって20万円以上勝ってしまったそうです。止めるつもりで入院したり、施設に入ったりするのに、その直前に飲んだり打ったりしているのは矛盾していると考える人もいますが、人が相反する気持ちを同時に持つことは珍しいことではありません。

シルクワース医師は病院のホールでビルに会いました。なぜ診察室ではなくホールだったのか理由の記述は見つかりません。僕が考えるに、カルバリー伝道所での一件から分かるようにビルは酔っ払うと大声で騒ぐタイプだったため、他の人への迷惑を考えると、ホールで対応せざるを得なかったのでしょう。ビルはシルクワース医師の顔を見ると、ビールを振り回しながら言いました。

「先生、やっと、何かつかんだんです!(I’ve found something!)

ビルはエビーの話や、カルバリー伝道所での出来事から、自分は回復に必要な何かをつかめたと考えており、それを先生に説明しようとしました。だがビルは酔ってビール瓶を振り回しているのでした。医師は悲しそうな顔で首を振ると、こう言いました。

「まあとにかく、上に行ってベッドに入って下さい」

ビルは、バルビツール酸系 の鎮静剤と、ベラドンナによる解毒治療を受けました。1)2) タウンズ病院での治療とベラドンナ治療については第36回で紹介しました。

ビル・Wのステップワーク

ビッグブックのp.19からp.20には、ビルが入院中にステップに勢いよく取り組む様子が描かれています。3)どの部分の記述がどのステップを示しているかについては、AAメンバーによって解釈が少しずつ異なるので、ここでは、ジョー・マキューの『ビッグブックのスポンサーシップ』の記述に従うことにします。

 ぼくは、ようやく自分が理解している神に、あなたの計画のままに私をお使いくださいと、謙虚に自分をささげた。神の配慮と指図のもと、条件を付けずに心から自分を差し出した。4)

この部分がビルのステップ3です。「あなたの計画のままに私をお使いください」は古い翻訳では「思召しのままにして下さい」となっていたのですが、新しい訳はオックスフォード・グループっぽい表現になっています。

生まれて初めて、自分は何者でもないこと、神なしでは自分もないことを認めた。5)

順番が前後しますが、これがビルのステップ2です。神に狂気強迫観念を取り除いてもらわなければ、私たちアルコホーリクは再発を繰り返して死ぬしかありません。神なしでは自分という存在は失われてしまうのです。

厳しい態度で自分の罪に対面し、・・・5)

これがビルのステップ4です。ビルは欠点のことを罪(sin)と呼んでいますが、これはオックスフォード・グループで使われていた用語です。

・・・それを新しく見つけた友である神に取り除いてもらう気持ちになった。5)

これがビルのステップ6および7です。彼は神を「新しく見つけた友(my new-found Friend)」と表現しています。私たちは狂気(強迫観念)をハイヤー・パワーに解決してもらうわけですが、欠点もハイヤー・パワーに取り除いてもらえるというわけです。ここからも、12ステップが自分でできないことを神にやってもらうプログラムであることが分かります。

 その学生時代の友人が訪ねてきた時、ぼくは自分の問題と欠点を思い切って全部彼に話した。6)

これがビルのステップ5です。学生時代の友人とはエビー・Tのことです。カルバリー伝道所に滞在していたエビーは、入院中のビルを訪れて、ビルの棚卸し(ステップ5)の相手をしました。

ぼくたちは自分が傷つけた人たち、自分が恨みを持っている人たちのリストを作った。ぼくはこの人たちに自分の誤りを認める心の準備がきちんとできているのだということも言った。相手を決して批判しなかった。6)

これがビルのステップ8です。ビルはエビーの手助けを受けながら、埋め合わせのリストを作りました。現在の翻訳では、「自分の誤りを認める」の前の「その人たちのところに自分から出向いていって(approach these individuals)」が抜けています。埋め合わせは直接行うものであって、間接的に行うものではありません。7)

ぼくは自分にできるかぎり、一つ一つのことを正していった6)


I was to right all such matters to the utmost of my ability.8)

これがビルのステップ9ですが、I was to right を「正していった」と訳したのは誤訳ですね。be to には、①予定、②運命、③義務、④可能、⑤意思の五つの用法がありますが、ここでは③義務の「正さねばならない」、あるいは⑤意思の「正すつもりになった」と訳すべきでしょう。なにしろ、ビルはこの時点ではまだ入院中なので、誰かのところに直接出向いて埋め合わせをすることはできなかったはずです。

 ぼくは自分が考えていることを調べる。新しくぼくが意識している神にすがって。常識が非常識になる。6)


I was to test my thinking by the new God-consciousness-within. Common sense would thus become uncommon sense.9)

これはビルのステップ10です。God-consciousness-within を意識している神と訳していますが、自分の内に存在する神の意識という意味です。オックスフォード・グループでは、自分の意思を神の意思によってテストするという実践が日常的に行われており、初期のAAメンバーもそれを行っていました。10) それによって、自分の古い考えが否定され、新しい考えに取って代わられていくことを、ビルは「常識が非常識になる」と表現しています。(cf. 「鏡をもて見るごとく見るところ朧なり」

たしかでないときは、静かに座って、神の計画のままにぼくの問題の方向づけと・・・(中略)・・・受けとるのは、はかりしれないほど大きなものである。6)

これはビルのステップ11です。祈りと黙想を通じて、神の意志を受け取っています。

初期のメンバーはすぐにステップに取り組んだ

Bill's final discharge slip from Towns Hospital
Bill’s final discharge slip from Towns Hospital, from PIO

これはビルの退院時の記録票ですが、入院日が1934年12月11日、退院日が12月18日で、8日間の入院だったことが分かります。ビルはこの短い入院期間中にステップ2から11のステップに取り組みました。

現在の日本の平均的なAAメンバーの経験からすると、まだ酒が抜けたばかりの入院中に、しかも数日間という短期間でステップワークに取り組んだというのは信じられないかもしれません。なぜなら、日本では入院期間が2~3ヶ月と長く、退院後にAAに腰を落ち着けてからスポンサーを見つけてステップワークをするのが普通ですし、なかには酒をやめて数年後にようやく12ステップに取り組むという人もいるくらい「ゆっくり」なのがポピュラーだからです。(しかしながら、最も多いのは、ステップに取り組まない人たちですが、AAにはそういう自由もあるのです)。

ドクター・ボブは、最初はアクロン市立病院、後に聖トーマス病院にアルコホーリクを入院させて解毒を行い、12ステップによる「治療」を施しました。その入院期間は5~8日間程度でした。11) ドクター・ボブは治療費を受け取っていなかったものの、患者は個室での入院の病院に費用を払わねばならず、長くは入院できなかったからです。12) アルコホーリクたちはこの短い入院期間に12ステップに取り組みました。つまり、初期のAAメンバーにとって、12ステップは何ヶ月も、何年もかけるものではなく、数日間で取り組むものだったのです。

ビルの霊的体験

 友人は、これらのことをした後には、きみは自分の創造主と新しい関係に入れるだろう、自分の問題を解決する生き方のかぎを手にできるだろうと約束した。・・・6)

この段落から「ビルの物語」の終わりまでが、ステップ12の長い説明になっています。ステップ12は、

これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め・・・13)

とあります。これらのステップ――ステップ1から11に取り組んだ結果、ビルは霊的体験を得ました。その体験をp.21の真ん中の段落でこう記述しています:

 これらは革命的な思い切った提案だった。だがその提案を完全に受け入れた瞬間に、効果は電撃のように現れた。続いて勝利感が、それからかつて一度も味わったことのない平安と落ち着きがやってきた。完全な自信があった。ぼくが軽やかに打ち上げられている山の頂には、清らかな力強い風が吹いていた。幾たびも、やむことなく。神の訪れは、ふつう、ゆっくりしたものであることが多いのだろう。ただぼくの場合、それはぼくの深いところに突然訪れたのだった。14)

これがビルの white lightホワイト・ライト あるいは hot flashホット・フラッシュ と呼ばれる霊的体験です。ちなみに、閉経前後のご婦人がほてりやのぼせを感じることもホット・フラッシュ(一過性熱感)と呼ばれますが、別物ですので混同されないようにお願いします。

彼はこの現象を神の訪れ(God comes)と説明しています。『AA成年に達する』に掲載された体験記では、そのことをもっと明確にしています。

 にわかに部屋が霊光で満たされた。私は言葉では言い表せない忘我の境地に魅了されていった。心の眼で見ると、私は山上におり、そこにはスピリチュアル(霊的)な風が吹いているようだった。さらに突然、私は解放されたという感じになった。忘我の境がゆっくりとおさまってきた。ベッドに横たわったが、しばらくは別の世界にいた。新しい意識の世界だった。私をとりまくあらゆるもの、そして私の何から何までが、神がおられるという豊かな感覚に包み込まれていた。心の中で思った。
「これが伝道者たちの言う神なのだろう!」
偉大な平安がいつしか私の心に広がってきた。私は思った。
「事態がどれほど悪い方向に行っているようでも、それはそれでよいのだ。神がいて、神の世界があれば、ものごとはうまくいくのだ!」15)

つまり、霊的体験とは、ハイヤー・パワー(神)を見つけることに他なりません。こうしてビルは、ステップ3以降の行動のプログラムに取り組むことで、ステップ2で見定めた目的地にたどり着きました。

AAではもっぱら霊的体験(spiritual experience)という言葉を使いますが、一般的には宗教的体験(religious experience)あるいは回心の体験(conversion experience)と呼ばれています。――悪い心を改める「改心」ではなく、信仰を持つ「回心 」であることに注意しましょう。

ビルはこの体験の後、二度と神の存在を疑うことはなく、また二度と酒に手を出すことなく一生を終えました。16)

AAはビルと同じことをする人の集団

この霊的体験を得ることが、アルコホリズムからの回復をもたらす、という考えは、カール・ユング 医師がローランド・Hに語ったものです(その場面は第二章のp.41にあります)。その考えはローランドからエビーを介してビルに伝えられました。そして、実際にそれによって回復したローランドやエビーという先例があることをビルは知っていました。だからこそ、自分の身にその現象が起きたときに、これが回復なのだということを認識できたわけです。

現在地・目的地・道程

では、何をしたら回復(=霊的体験)が手に入るのでしょうか?

それはビルと同じように、ステップ1とステップ2で現在時と目的地を見定め、ステップ3から12でその道程を進んでいけば良いのです。第10回で説明したように、AAはビルと同じことをやって、ビルと同じ回復(=霊的体験)を手に入れようという集団なのです。

Simon of Cyrene helps Jesus carry the cross by Giandomenico Tiepolo
Simon of Cyrene helps Jesus carry the crossm, by Giandomenico Tiepolo, from Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

ところで、ある人がこんなことを言っていました。エルサレムに行くと、十字架を担いで歩いている人がいるのだそうです。イエス・キリスト ゴルゴダの丘 磔刑 を受けたとき、そこまで十字架を自分で運ばされました。その苦難を自ら体験することで、少しでも開祖に近づこうとする試みなのだそうです。また、インドに行けば、釈迦 と同じ修行をしている僧たちがいるそうで、これも開祖と同じ修行をすることで、その悟り近づこうとするわけです。

AAは宗教ではありませんが、宗教と同じ構造をしていて、AAメンバーは創始者ビル・Wと同じ霊的体験をするために、彼と同じこと(12ステップ)をするわけです。(同じ構造を持つことを見抜くとはかなりの慧眼の持ち主であり、侮れぬ人だと思ったものです)。ビルのスポンシーだったドクター・ボブも、ビルと同じことをすることによって回復したわけです。

この構造は、他にも見つけることができます。例えば、ゲシュタルト療法 をやる人たちは、フレデリック・パールズ と同じことをやってパールズに近づくことを目指すわけですし、家系ラーメン の店に弟子入りする人は創始者吉村実と同じ技を身に付けてのれん分けを目指すわけです。だから、AAは家系ラーメンと同じ構造をしていると言うこともできます。

つまり、宗教も、AAも、ラーメン屋ののれん分けシステムも、正統的周辺参加 という仕組みを持っているということです。――正統的周辺参加は今年の公認心理師 の試験問題に出ていましたね(僕は間違えましたが)。

霊的体験と霊的目覚め

しかしながら、AAメンバーの話を聞いてもビル・Wのような霊的体験をしたという話はほとんど聞くことができません。12ステップに取り組むAAメンバーの比率が少ないことや、ステップに取り組んでいる人でも途中で止まってしまう人が多いことを考慮に入れても、霊的体験の実在性を疑いたくなるほどに少ないのです。

それについては、ビッグブックのビルの記述――「神の訪れは、ふつう、ゆっくりしたものであることが多いのだろう。ただぼくの場合、それはぼくの深いところに突然訪れたのだった」(p.21)が一つの説明になります。

つまり、多くの人にとって霊的体験はゆっくりと時間をかけて起こるものです。このゆっくりとした(gradually=徐々に)タイプの霊的体験を、AAでは霊的目覚め(spiritual awakening)と呼んでいます。ビルのような突然の徹底的な変化は、(皆無ではないものの)珍しい例外的な体験であることが分かっています。

from Alcoholics Anonymous Facsimile First Printing of the First Edition

ではあるものの、AAの創始者であるビル・Wが例外的な体験をしてしまったため、12ステップが最初に書かれたとき、そのステップ12は:

Having had a spiritual experience as the result of these steps,17)


これらのステップを経た結果、私たちは霊的体験を得て、・・・(拙訳)

となっていました。そのことは、ビッグブックの初版のレプリカでも忠実に再現されています。その後AAが次第に広がるにつれて、ゆっくりと起こる霊的目覚めのほうが圧倒的に多く、急激な霊的体験はごく少数であることが分かってきました。そこで、2年後にビッグブックを増刷するときに、ステップ12は:

Having had a spiritual awakening as the result of these steps,18)


これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、・・・13)

と書き換えられました(これが12ステップの歴史上唯一の変更です)。19)

つまり、①徐々に起こる霊的目覚め、②急激な霊的体験の二つのタイプがあり、①と②を総称して霊的体験と呼んでいるのです。

ジョー・マキューもチャーリー・Pも、徐々に霊的に目覚めたと述べていますし、彼らが出会った数多くの仲間の中で急激な霊的体験をしたのは5人に過ぎなかったとしています。20) この二人の話から霊的体験の発生確率をざっくり見積もるとすれば、0.1%以下といったところでしょうか(母数が不明なので極めていい加減な推算ですが)。

霊的体験について詳しくは、第二章以降の各論の中で掘り下げますので、ここでは概略のみにとどめておきます。

霊的体験はその人を変える

ビル・Wは霊的体験によって自分が変わることができたと主張しているわけですが、それは主観的なものに過ぎません。つまり、何とでも言えるということです。では、他者から見てどうだったのでしょうか。それについては、妻ロイスが Lois Remembers というアラノンの書籍で、霊的体験の後のビルに会ったときの様子を語っています。

Bill had left a note for me at home. Upon finding it I was quite upset. Why hadn’t he consulted me about going to the hospital? What good would it do anyway? He would get drunk again the minute he left. Who was going to pay the bill? The money I earned was just barely enough to keep us going–including Bill’s liquor bills. We had been forced to ask for help in the payment of the previous hospital bills, but we couldn’t do it again. Dad had no money. Where could I get it? We had occasionally pawned some silver; perhaps I could sell some wedding presents now. But what possible permanent good could it do for Bill to go the hospital again?
I soon found out. The minute I saw him at the hospital, I knew something overwhelming had happened. His eyes were filled with light. His whole being expressed hope and joy. From that moment on I shared his confidence in the future. I never doubted that at last he was free. I walked home on air.21)


 ビルは家にメモを残していました。それを見つけたとき、私はすっかり動揺してしまいました。なぜ病院に行くことについて私に相談してくれなかったのでしょう? 病院がいったい何の役に立つというのでしょう? 彼は退院した途端にまた飲むに決まっています。誰が請求書を払うというのでしょう? 私の稼ぐお金は、ビルの酒代を含めて、二人が暮らしていくのにギリギリの金額でした。私たちはこの前の入院の請求書を支払うのに助けを求めざるを得ませんでしたが、もうそれはできません。父にもお金はありませんでした。どうやってお金を手に入れればいいのか。これまでにも銀器を質に入れたこともありましたし、たぶん結婚祝いにもらったプレゼントのいくつかは売れるでしょう。しかし、ビルをまたあの病院に入れたところで、どんな永続的な利益が得られるというのでしょうか?
 私はすぐにそれを知ることになりました。病院で彼に会った瞬間、何か圧倒的なことが起きたことが分かりました。彼の目は光で満たされていました。彼の全身が希望と喜びを表していました。その瞬間から、私は彼の未来への確信を共有しました。以来、私は彼がついに解放されたことを疑ったことはありません。私は空の上を歩くような気分で家に帰りました。(拙訳)

アルコホーリクの家族は疑い深くなるものです。それは、本人が飲んでいないと言っているのに実は飲んでいるとか、もう絶対に飲まないと誓ったのにまた飲んでいるとか、高い金を払って入院させたのに退院した途端に飲んでしまう、といった経験を繰り返しさせられれば、何をやっても無駄だと思うようになりますし、裏切られる結果が出たときに辛いので希望は持たないようになっていくものだからです。学習性無力感 というやつですね。――昨年はあんなに出題された学習性無力感が今年は一つも出ませんでした(せっかく過去問やったのに)。

そのように懐疑的になったロイスにとっても、ビルに変化が起きたことは明らかでした。詳しくは次回に譲りますが、シルクワース医師の目から見ても、ビルの変化は明らかでした。このように、主観的な変化だけでなく、他者から見ても変化が起きていることが霊的体験の特徴だと言えます。

回復は他者から見た変化を伴ったものです。シルクワース医師が「医師の意見」でハンク・Pフィッツ・Mという二人の事例を取り上げた際にも、彼の目から見て二人が大きく変化したことを強調しています第27回第28回。またビッグブックの付録Ⅱ「霊的体験」でも、本人が気づくより早く周りの人たちがその変化に気づくことが多いと述べられています(p.267/571)

自分は霊的な体験をしたと主張する人の話を聞いたことは何回かあります。しかし、周りの人がその人の変化を認めるかどうかも回復の重要な指標ですから、周囲の人の目から見て変化がないようであれば、その人の話は半分に聞いておいた方がよさそうです。

次回は、ビル・Wのステップワークと霊的体験の真実に迫ります。

今回のまとめ
  • ビル・Wはタウンズ病院への4回目の入院中に、エビー・Tの手助けを受けながらステップワークに取り組んだ。
  • 初期のAAメンバーは数日間という短期間で12ステップに取り組んだ。
  • これらのステップ(ステップ1~11)に取り組んだ結果として、ビルは霊的な体験をした。
  • AAは、創始者であるビル・Wと同じこと(12ステップ)をやって、同じ回復(霊的体験)を目指す人の集まりである。
  • 回復は他者から見た変化を伴ったものである。

  1. AACA, pp.92-93 []
  2. PIO, pp.119-120 []
  3. 正確には12ステップはこの4年後に成立するので、ここでビルが取り組んだのは12ステップの原型である。 []
  4. BB, p.19 []
  5. BB, p.19 [] [] []
  6. BB, p.20 [] [] [] [] [] []
  7. ワリー・Pのバック・トゥ・ベーシックスでは、直接埋め合わせをするとかえって相手を傷つけてしまう場合に、別の何かの(in-kinds)埋め合わせをすることを提案していますが、これは間接的な埋め合わせではありません — Wally P., Back to the Basics of Recovery – How to take the Twelve Steps “quickly and often”, Faith with Works Pub., 2016, pp.57-59 []
  8. AA, Alcoholics Anonymous: The Story of How Many Thousands of Men and Women Have Recovered from Alcoholism, AAWS, 2001, p.13 []
  9. AA, p.13 []
  10. ワリー・P(ジャパンマック訳)『バック・トゥ・ベーシックス』, ジャパンマック, 2016, pp.105, 151, 160, 166-167 []
  11. DBGO, p.146-147, 280 []
  12. 個室が使われたのは、入院中に多数のAAメンバーが訪問して話をするためでした。 []
  13. BB, p.86 [] []
  14. BB, p.21 []
  15. AACA, p.94 []
  16. PIO, p.121 []
  17. AA, Alcoholics Anonymous Facsimile First Printing of the First Edition, AAWS, 2014, p.72 []
  18. AA, p.60 []
  19. ワリー・P, p.175 []
  20. 無名(A Program for You翻訳チーム訳)『プログラム フォー ユー』, 萌文社(ジャパンマック), 2011, p.64 []
  21. Al-Anon, Lois Remembers—Memories of the co-founder of Al-Anon and wife of the co-founder of Alcoholics Anonymous, Al-Anon Family Group Headquaters Inc., 1979, p.89 []