ビッグブックのスタディ(4) 再版にあたって 1

誤解されているAAの始まり

「再版にあたって」は1955年にビッグブックの第2版が出たときに加えられたものです。初版出版後の16年間のAAの発展が書かれています。

ただし、今回は初版が出た後ではなく、初版が出る前――つまりビッグブックができあがるまでに焦点を当てます。それは12ステップができあがる過程でもあります。p.xx (20)の先頭から:

 AAグループ誕生への発火点となったのは、一九三五年六月、オハイオ州アクロンで、ニューヨークの株式ブローカーアクロンの医師の間に交わされた会話だった。1)

「ニューヨークの株式ブローカー」がビル・Wで、「アクロンの医師」がドクター・ボブです。つまり、AAの共同創始者であるビルとボブの二人が出会ったことがAAが始まるきっかけだというわけです。

このことから、AAや自助グループについて説明した(AA外部の)書籍には、しばしばこんな表現が見られます:

ありがちな説明ビル・Wとドクター・ボブという二人のアルコホーリクが出会い、飲酒の体験を語り合うことで断酒ができた。これがAAという自助グループの始まりである。

この文章は「アルコホーリクが集まって体験を語り合うミーティングを行えば、AAができあがる」という誤解を与えかねません。現代の日本のアルコホーリクには他のアルコホーリクと出会うチャンスがたくさんあります。きょうも日本中のあちこちの病院の待合室で、病棟で、デイケアで、あるいは酒場で、数多くのアルコホーリクが同病の人と会って話をしたことでしょう。もし、上記の説が本当ならば、AAグループがどんどん発生し、今頃日本中AAだらけになっているはずです。だが、そうなってはいません(つまり上記の説は真実ではない)。

AAは、そういった誤解を与えないように、慎重に言葉を選んで始まりを説明しています。例えば、『AA早分かり』というパンフレットでは:

どのようにしてAAは始まったのか
AAは、1935年にニューヨークの株式仲買人とオハイオの外科医によって始められました。(二人とも故人となっています) 当時の二人はまったく見込みのない酔っぱらいでした。彼らは、アルコホリズムという病で苦しんでいる人たちを手助けし、自分たちも飲まないで生きる努力をするなかで、AAの基礎を築きました。2)
How A.A. Started
A.A. was started in 1935 by a New York stockbroker and an Ohio surgeon (both now deceased) who had been “hopeless” drunks. They founded A.A. in an effort to help others who suffered from the disease of alcoholism and to stay sober themselves.3)

と説明しています。ここには「アルコホーリクが集まって体験を語ることでAAが始まった」という話は含まれていません。そのような「神話」はAA外部の人たちが作り出し、広めたものです。いまやAAメンバーの中にもこの神話を「権威ある人の言葉だから」と鵜呑みにして再発信する人が少なくありません。こうした誤解は今後も再生産され続けることでしょう。

ちなみに、この『AA早分かり』の説明でも、hopeless(絶望的)という言葉がクォーテーションで強調されています。これは第2回で説明した、ステップ1を表現する重要なキーワードです。

実際はどう始まったのか

では、どのようにAAが始まり、ビルとボブは出会ってから何をしていたのか、という話に移りましょう。AAの歴史の学術的な研究を行ったアーネスト・カーツ(Ernest Kurtz, 1935-20154)は著書『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』の中で、AAの四つの「創始の瞬間」を挙げています。5)

時期 出来事 BBのページ
1931年 カール・ユング医師とローランド・Hの会話
pp.39-42
1934年11月終わり エビー・Tがビル・Wを訪問 pp.13-19
1934年12月半ば タウンズ病院でのビル・Wの「霊的体験」と
ウィリアム・ジェームズの(書籍の)発見
p.21
1935年5月~6月 ビル・Wとドクター・ボブの交流 pp.223-227

ビルとボブの出会いはであり、一連の出来事の掉尾ちょうびを飾るものです。そこに至るまでには①から③の出来事がありました。

p.xx (20)の2行目から続けます:

その六ヵ月前、このブローカーは当時オックスフォード・グループにいた一人のアルコホーリクの友人と出会った。6)

この「友人」が、ビルのスポンサーであるエビー・Tで、二人の再会が上の表のにあたります。

そのあと彼は突然訪れた霊的な体験によって飲酒への強迫観念から救われたのだった。6)

ビルの「霊的体験」は、上の表のにあたります。

第1回で、現在地問題と目的地解決を知ることの大切さを強調しましたが、この一文で言えば、「飲酒への強迫観念」が問題、「霊的体験」が解決です。

ビル・Wのシルクワース医師との出会い

ブローカーはまた、ニューヨークにいたアルコホリズムの専門家で、AAメンバーにとっての聖人である故ウィリアム・D・シルクワース医学博士に大いに助けられた。博士による、初期のころのAAの話が次の章に掲載されている。シルクワース博士から、ブローカーはアルコホリズムの深刻な現実を学んだ。6)

ビルは1933年の秋にアディクションの専門病院に入院し、主治医となったシルクワース医師から「アルコホリズムの深刻な現実」を教えられました。それが後に私たちのステップ1になります。その詳しい内容は「医師の意見」の章に書かれていますから、私たちは「医師の意見」を読むことで、ビルが得たのと同じ情報を得ることができます。

問題・解決・行動の三点セットで説明するならば、ビルはこの時点で問題を理解したことになります。しかし、それだけではビルは酒をやめることはできませんでした。退院後しばらくして彼は再飲酒し、翌34年の夏に二度目の入院をしました。(さらに9月に三度目の入院をしました。2020-10追記)。この時、シルクワース医師はビルの妻ロイスに、もはやビルに回復の見込みはない(hopeless)という宣告をし、それはビルの耳にも入りました。7) 8)

ビル・Wの友人エビーとの再会

退院後、また飲み始めたビルのもとへ、高校時代の友人エビーがやってきました。エビーはビル以上に絶望的なアル中だったのですが、オックスフォード・グループの人たちの手助けを受けて回復していました。そして、自分も他のアルコホーリクを手助けしようと考え、その相手としてビルを選んだのでした。

エビーのメッセージの中身は、ビルの問題に対する解決と、その解決を手に入れるための行動のプログラムでした。

彼はオックスフォード・グループの教義を丸ごと受け入れることはできなかったが、自分の過去を道徳的に棚卸しすること、短所を認めて告白すること、傷つけた人たちへ埋め合わせをすること、他の人の手助けをすること、神への信仰と依存が必要であることなどを納得した。6)

ビルは「神」という概念をすんなり受け入れたわけではありませんが、最終的にはオックスフォード・グループの教義のいくつかを受け入れています。それらがステップの何番目になったか、というのが下の表です:

ステップ オックスフォード・グループの教義
3 (降伏する)
4 自分の過去を道徳的に棚卸しする
5 短所を認めて告白する
8,9 傷つけた人たちへ埋め合わせ
11 神への信仰と依存
12 他の人の手助けをする

こうしてビルは、問題・解決・行動の三つを揃えることができ、回復が可能になったのです。この時点ですでに12ステップの原型ができあがっていました。

 ● 問題・・・「飲酒への強迫観念」
 ● 解決・・・「霊的体験」
 ● 行動・・・「オックスフォード・グループの教義」

ビル・Wの回復

ビルは1934年12月に最後の入院をし、エビーの手助けによって霊的体験を得ました。その様子はビッグブックの第一章(p.21)に書かれていますが、ビルはその体験を「神の訪れ」と表現しています。

ビルはこの体験によって自分がアルコールから自由になったことを知りました。そして、自分が手にしたもの(霊的体験)を同じように手にしたいと願っているアルコホーリクは、きっとたくさんいるだろうと考え、彼もエビーと同じように他のアルコホーリクを助ける活動を始めました。9)

今回のまとめ
  • 「アルコホーリクが集まって体験を語り合うことでAAが始まった」という説明は誤解によるもの。
  • ビル・Wとドクター・ボブの出会いの前には、いくつかの重要な出来事が起きていた。
  • ビルは、シルクワース医師から問題を伝えられた。
  • ビルは、友人エビーから解決行動を伝えられた。
  • それによって霊的体験をしたビルは、エビーと同じようにアルコホーリクを手助けする活動を始めた。

しかし、ビルとボブの出会いまでにはまだ半年あります。次回に続きます。


  1. BB, p.xx (20)  []
  2. AA(AA日本出版局訳)『AA早分かり』, AA日本ゼネラルサービス, 2003 []
  3. AA, F-1 – A.A. at a GlanceAlcoholics Anonymous (aa.org), AAWS, 1977 []
  4. カーツの没後、彼のサイトは妻のLindaによって友人らの寄稿を掲載するサイトになっている。Lindaは妻、妹がMarry(2020-9-21修正)。 []
  5. アーネスト・カーツ(葛西賢太他訳)『アルコホーリクス・アノニマスの歴史――酒を手ばなした人びとをむすぶ』, 明石書店, 2020, pp.74-75 []
  6. BB, p.xx (20)  [] [] [] []
  7. BB, p.11 []
  8. AACA, pp.82-83, 95-96 []
  9. BB, p.22 []